最後の患者さん
先月末、ある患者さんが入院されました。
彼は肺癌。
ちょうど二年前、以前いた病棟に呼吸器科が入り始めたとき、彼も入院してきました。
初めての化学療法を、私が担当しました。
主治医は、あのS医師。彼もこの病院に来たばかりでした。
S医師が点滴を刺し、彼の手を握って「一緒に頑張りましょうね」と言うのを、横で聞いていました。
同じ肺癌の患者さんが、四人。それから三ヶ月、ずっと同じ顔ぶれで彼らは過ごしました。
退院して、その後も彼らは化学療法のために入退院を何度も繰り返しました。
そして二年間の間に、最初のあの病室の四人のうち、一人が亡くなり。
また一人、亡くなり。
彼以外の三人が、みんな、私達の病棟で亡くなりました。
彼も、二年間の間に。
脳転移が見つかり、
膵臓転移が見つかり、
今回の入院で、副腎転移が見つかりました。
久し振りに見た、彼の顔・・・。
青黒くなった肌。
痩せて、点滴も入らなくなった腕。
けれど笑顔だけは、あの彼のまま。
奥さんも、いつもどおり、穏やかに、笑顔で。
そして昨日。
夜勤で受け持った彼は、点滴にすがって歩いて、全身に冷や汗をかいて。
腎機能が悪くなったためか尿が出辛く、けれどとにかく尿意が強くて車椅子で何度もトイレへ。でも尿は出ずに。
尿器を使うよう説明しても、脳転移のせいかすぐに忘れてしまって、転倒の防止のためにセンサーマットを敷いて・・・
見当識障害が出始め、
嘔吐を繰り返して・・・
個室へ移動して、ほとんどずっと付き添っている状態で。
彼が歩いて、笑顔で手を振って歩いてきてくれる姿を私は覚えています。
照れたように笑い、話してくれる彼を覚えています。
いつも、忘れちゃいけない。彼らには元気だった頃があって、そうして今の彼らがいる。
彼はあのとき、四人部屋で、みんなで冗談を言い合って笑っていた。
私の大切なあの四人部屋の、最後の患者さん。
二年間、私がプライマリーを続け、ずっと一緒に歩いてきた、大切な患者さん。
深入りすることなんて、覚悟の上で。
どれだけ状態が悪くなっても、最後まで看続ける事を、心に決めて。
彼は、私の、大切な。 最後の患者さん。
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ラベル: 看護師
2 件のコメント:
お久し振りです。
二年間、ずっと見てきた患者さんだったら、もう家族みたいな気持ちですよね…。
辛いだろうけど、それでも頑張ってる都さんはすごいと思います。
かおるさん>
お久し振りです!
ありがとうございます。でも彼が少しでも状態よくなって、ほんとに良かった。
これからもこういうことはあるだろうけど…。その都度、きちんと向き合っていきたいと思います。
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