白衣の独り言

良いことも悪いことも、人生には必要みたい。それでもやっぱりできるだけ、悪いことは少なめであって欲しいから、みんな頑張っているんだね。

2008年6月3日火曜日

最後の患者さん

先月末、ある患者さんが入院されました。


彼は肺癌。


ちょうど二年前、以前いた病棟に呼吸器科が入り始めたとき、彼も入院してきました。
初めての化学療法を、私が担当しました。
主治医は、あのS医師。彼もこの病院に来たばかりでした。

S医師が点滴を刺し、彼の手を握って「一緒に頑張りましょうね」と言うのを、横で聞いていました。

同じ肺癌の患者さんが、四人。それから三ヶ月、ずっと同じ顔ぶれで彼らは過ごしました。


退院して、その後も彼らは化学療法のために入退院を何度も繰り返しました。


そして二年間の間に、最初のあの病室の四人のうち、一人が亡くなり。

また一人、亡くなり。

彼以外の三人が、みんな、私達の病棟で亡くなりました。


彼も、二年間の間に。

脳転移が見つかり、

膵臓転移が見つかり、

今回の入院で、副腎転移が見つかりました。


久し振りに見た、彼の顔・・・。

青黒くなった肌。

痩せて、点滴も入らなくなった腕。

けれど笑顔だけは、あの彼のまま。

奥さんも、いつもどおり、穏やかに、笑顔で。


そして昨日。

夜勤で受け持った彼は、点滴にすがって歩いて、全身に冷や汗をかいて。

腎機能が悪くなったためか尿が出辛く、けれどとにかく尿意が強くて車椅子で何度もトイレへ。でも尿は出ずに。

尿器を使うよう説明しても、脳転移のせいかすぐに忘れてしまって、転倒の防止のためにセンサーマットを敷いて・・・

見当識障害が出始め、

嘔吐を繰り返して・・・

個室へ移動して、ほとんどずっと付き添っている状態で。


彼が歩いて、笑顔で手を振って歩いてきてくれる姿を私は覚えています。

照れたように笑い、話してくれる彼を覚えています。

いつも、忘れちゃいけない。彼らには元気だった頃があって、そうして今の彼らがいる。

彼はあのとき、四人部屋で、みんなで冗談を言い合って笑っていた。

私の大切なあの四人部屋の、最後の患者さん。

二年間、私がプライマリーを続け、ずっと一緒に歩いてきた、大切な患者さん。

深入りすることなんて、覚悟の上で。

どれだけ状態が悪くなっても、最後まで看続ける事を、心に決めて。


 彼は、私の、大切な。 最後の患者さん。


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2 件のコメント:

Anonymous 匿名 さんは書きました...

お久し振りです。
二年間、ずっと見てきた患者さんだったら、もう家族みたいな気持ちですよね…。
辛いだろうけど、それでも頑張ってる都さんはすごいと思います。

2008年6月5日 23:27  
Blogger  さんは書きました...

かおるさん>
お久し振りです!
ありがとうございます。でも彼が少しでも状態よくなって、ほんとに良かった。
これからもこういうことはあるだろうけど…。その都度、きちんと向き合っていきたいと思います。

2008年6月10日 10:16  

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