白衣の独り言

良いことも悪いことも、人生には必要みたい。それでもやっぱりできるだけ、悪いことは少なめであって欲しいから、みんな頑張っているんだね。

2007年9月17日月曜日

待っててくれる

先日、ある患者さんを看取りました。

その患者さんは、化学療法のために去年からずっと入退院を繰り返していて、歩いてる頃から知ってる方でした。

初めて入院してきたとき、まだ一番奥の大部屋で、彼は冗談を言ったり軽く看護師にセクハラしてにやっと笑ったり。

4人部屋にいたのは、みんな同じ疾患の人達。
みんな、癌で、化学療法をしていて、自分の病気も告知されていました。
ただ知らないのは、余命。

同じ疾患だから、仲良くもなるし、何より明るい人が多くて、いつも奥部屋はにぎやかでした。

退院しても、お互い入院していることを知っていたらお見舞いにきたり、外来に来ると病棟まで上がってきて「あの人今入院してる? 元気?」と聞いてみたり。

本当は他の患者さんのことを話してはいけないんですが、最初私達も「元気みたいですよ」くらいのことを話していました。


そのうち、仲の良かった四人の一人が、状態悪くなり。

「みんなにこんなの見せたら悪いしねぇ」

と苦笑して、面会を断るように看護師に頼んできました。

お見舞いに来る3人に、それとなく「ちょっと体調が悪いから・・・」と面会を断っているうち、彼らも気付いたようでした。

その人が亡くなったとき。
ちょうど彼も、同じ病棟に入院していて。

しきりに「あの人どうなの?」「まだ大丈夫?」と聞いてくる彼に、私達は最初言葉を濁していました。

何度も聞く彼に、「退院しましたよ」と、ある看護師が答えたそうです。

彼はそれから何も聞かなくなりました。

つい先日まで、面会も断られるほど状態が悪くて。
そんな人が、「退院した」と。
誰だって、元気になって退院したとは思わないでしょう。


「きっと、天国で俺のこと待っててくれてるよ」

しばらくして私が受け持ったとき、彼はそう言って微笑みました。


強いひとです。
私だったら、怖くて仕方なくなる。

自分と同じ疾患。同じ時期に、同じ部屋で同じ治療をし、同じように冗談を言って笑い合っていた。

自分はいつ、どうなるのか。


そんな彼が、車椅子で入院してきたのは、先月。

ついこの間、外来で見かけたときは、まだ杖も使わず歩いてた。

入院して、臥床している時間が長くなり、トイレまで行くにも看護師に付き添ってもらうようになり、尿器になり。痛みに麻薬の貼り薬を使い。

冗談半分でしていたセクハラもしなくなり、最初見られていたあの皮肉な感じの笑顔も、だんだん見せなくなり。

表情が暗く、うつのような感じになり・・・。


そうして、この間の夜勤。

反対チームの大部屋にいたはずの彼が、私のチームのCCUに入っていました。

レベルも下がり、酸素をし、モニターをつけて。

その夜、奥さんがずっと付き添い、私達は彼を看続けました。

急変時は、DNR。
血圧が下がっても、昇圧剤は使わない。人工呼吸器も、心臓マッサージもしない。
自然にまかせる。

朝、彼の呼吸がだんだん伸びはじめ、レベルがさらに下がり、奥さんに娘さんを呼ぶよう伝え。

ずっと120台だった心拍数が60台になり、血圧が測れなくなり。

かけつけた娘さんと、一晩一緒にすごした奥さんに手を握られながら、彼は最後の息をして、

そして、そのまま、次の息をすることはなく。



二日前、四人部屋で一緒だった患者さんが彼に面会したいとやってきていました。

「朝だし、どこか出かけてるかもしれない」と答え、状態が悪いということを知っていた彼は、それ以上何も質問せず、会うことなくそのまま帰っていきました。


いずれは、きっと彼も。

今入院している方も、そのうち誰か。

お見送りする日が、来るでしょう。


あまり患者さんに深入りすると、亡くなるときが辛いよ。

ある医師はそう言いました。

整形外科から移動してきた看護師は、「今まで退院する人は、みんな元気になってからだったのに」と言います。


看護師の仕事は、病気を治していく過程を手伝っていくこと。元気になるために。

それでもどうしても、どうしたって、治らない病気だってあります。

そんな彼らを、できるだけ苦痛なく、安心して笑っていられるように、私達に何ができるのか。


人間は、健康でも、病気を持っていても、誰だって必ず迎える最後の過程があります。

それを忘れずに、彼らと話し、笑い、手を握る。

いずれは迎える死を覚悟しながらそれでも日々を生きる彼らと向き合って、私達は看護師を続ける。


患者さんの死に慣れることは、決してないでしょう。慣れたらいけない。


深入りして、辛くたって。


私達はそれを抱えて、生きていくんです。



 彼らはきっと、私達を待っていてくれるはず。



http://blog.with2.net/link.php?469768

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5 件のコメント:

Anonymous 匿名 さんは書きました...

お疲れ様でした。
その通りだと思います。
そういう辛さや痛みを知った上で患者さんに微笑んでいられる都さんは、本当にやさしい人でしょうね。

2007年9月18日 19:19  
Anonymous 匿名 さんは書きました...

看護婦さんの仕事って、軽く「大変」なんて言っちゃいけないって思うくらい、ほんとに大変なんだね…
ゆっくり休んでください。

2007年9月19日 11:43  
Blogger Unknown さんは書きました...

ブログを興味深く拝見しております。
突然の書き込み失礼いたします。
この度、『看護師専門の結婚相談所マリッジナース』の運営をはじめました。
宣伝をさせて頂きたく書き込みをさせていただきました。
どうぞ宜しくお願い致します。
牛島
http://marriagenurse.com/

2007年9月19日 17:47  
Anonymous 匿名 さんは書きました...

こんにちは。
大変でしたね。都さん、ほんとに辛かったと思います。
患者さんの死に慣れることが、できる看護師だって、先輩は言ってましたけど、絶対に違うと思います。
ゆっくり休んでください。

2007年9月20日 10:18  
Blogger  さんは書きました...

皆さん
ありがとうございます。
いつもほんとに、皆さんのコメントに助けられてます。
ありがとう。

2007年9月22日 0:21  

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